種を蒔く料理原川慎一郎

長崎赤長かぶの温泉蒸し、
橙と豆腐のピュレ
弘岡かぶのポワレ、
かぶの葉とエタリの塩辛のサルサヴェルデ

岩崎さんが守られてきた在来種野菜たちの魅力は、やはりその多様性を感じられる時に最大限に発揮されるように思います。
それぞれの個性を尊重し、そしてそれをそれぞれが活かしあいながら存在する。
品種の多様性だけでなく、その品種の中での個体差も含めた個性。
統一するのではなく、さらには均一化していくのではなく、そのままのそれぞれの個性に寄り添い、手を添える。
そうすると、そこからなんとも言えない圧倒的な命の響きが生まれる。
それが岩崎さんの農業であり、岩崎さんの畑の景色なのだと思います。

カブも本当にたくさんの種類があって、それぞれの特徴と味わいがあります。
その中から、今回は長崎赤長かぶと弘岡かぶを料理させて頂きました。

赤長かぶはじっくり温泉蒸しにして、橙のドレッシングと豆腐のピュレを添えました。
蒸したカブと豆腐のピュレのシルキーさの上に少しハッとするような柑橘の香りを散らして。
あくまでもフォーカスは赤長かぶです。

弘岡かぶはとてもとても存在感のあるお野菜です。
それを五感で感じて味わってほしいと思います。
思いっきり縦に輪切りにして、しっかり焼き色をつけて焼く。
ステーキを食べるようなイメージで頬張るような。
かぶの葉とエタリ(カタクチイワシ)のサルサヴェルデをたっぷりとかけて。


料理
原川慎一郎
郡司製陶所
写真
繁延あづさ
原川慎一郎

原川慎一郎
静岡県生まれ。渋谷のお店で修業の後、渡仏。帰国後、三軒茶屋の「uguisu」などのレストラン勤務を経て、2012年に目黒にレストラン「BEARD」をオープンし、話題となる。2017年、バークレーにあるアリス・ウォータースの「シェ・パニース」元総料理長であるジェローム・ワーグとともに、東京神田にレストラン「ザ・ブラインド・ドンキー」をオープン。そして2020年、長崎県雲仙市に移り住み、BEARDを再オープン。岩崎政利さんが守り継いできた在来種の野菜を軸にした料理を発信している。

選んだ野菜

長崎赤長かぶ

戦前から長崎市東部地区で「長崎赤大根」の名前で受け継がれ栽培されてきた。赤大根と名付けれらているがかぶの一種で、岩崎さんはその姿そのままに「長崎赤長かぶ」と呼んでいる。

形が大根のように長いため、俗称として古くから赤大根で親しまれてきた。「赤鬼の腕」に似ていることから、江戸時代より節分の魔除けにカナガシラという魚の煮つけと、酢の物を食べる風習がある。長崎市内では「節分大根」、「鬼の手大根」とも呼ばれることもある。

弘岡かぶ

高知県春野市弘岡地区に伝わる在来種。
岩崎さんのもとにきた、たった二つの弘岡かぶから自家採種をはじめ、今では岩崎さんの冬野菜には欠かせない存在感を放つに至っている。

漬物用としての契約栽培が主なので、地元でも生のかぶはほとんど出回らないという。つるりとした肌がきれいで形はハート型で大きく育つ。岩崎さん曰く「かぶの女王」そのままの気品のある佇まい。火を入れると透明に透き通って柔らかく、誰もが忘れられない甘い味わいが沁みてくる。

種を蒔く料理

江口研一food+things)

器 ‖松本かおる
写真‖在本彌生

北嶋竜樹neutral)

器 ‖須恵器
写真‖八木夕菜

船越雅代

器 ‖インドの古い石皿
写真‖八木夕菜

今井義浩monk)

器 ‖陶片、棚板 陶板
写真‖八木夕菜