INTERVIEW with ILL-BOSSTINO

04

制作、練習

書くしかない、歌うしかない」

I:リリースの度にTBHR史上最高の作品群が生まれて、それが何度も塗り重ねられているじゃないですか。一方で、それを踏み台にしてもう一歩上に行かないといけないのはすごく苦しいことだと思います。その壁をどういうモチベーションで越えているんでしょうか?

B:書くか歌うかしかないね、やっぱり。例えばこのアルバムや曲(2023年4月発売の最新アルバム「IN THE NAME OF HIPHOP II」)が今、自分の成果として存在してんだけど、これをまた越えていかなきゃ駄目だっていうので、もう次を書き始めてはいるんだけど。やっぱりこいつら(同作)は頑張って書いた分だけすごいし、だからもう、書いても書いても全然敵わないっていうような時期は長く続くよ、やっぱり。次の(新しく作った)1曲目から越えてる、なんてことは絶対ありえない。でも、大体10曲ぐらい(歌詞を)書いてこれは絶対いけるなっていうのが5、6曲あった時、もしかしたらまた(アルバム)いけちゃうかも、みたいな光が差し出すって感じ。そこまでが長くて、すごい苦しいね。

I:聞いているだけでその辛さが伝わってきます。今はちょうど次回作を書き始めているタイミングだったんですね。

B:そうそう。いつもは大抵アルバムリリースした直後のインタビューが多くて、(その場合は)もう乗り越えた後だし、自信に漲ってて、無敵の状態。でも今日は、次の制作が始まったばかりの段階だから。また全然違う。自信があるかといわれたら、どうかなと。でも、今までずっとできたから多分また出来るんじゃないかな、って。だからまあやってみるって感じだよね。

I:リリースした達成感が渇望に変わってくる段階でもあるということですか。

B:これ(同作)4月に出たけど、もう10月にもなれば、その達成感もすぐ終わっちゃうよね。そこからまた、お前どうすんの? あれで終わりなの? みたいな奴も、俺の中で出てくるし。

I:こんなこと聞くのは野暮な質問ですけど……。以前、ライブの準備について「俺等よりやってる奴いないから」とさらっと仰っていて、すごいって思ったんですけど。例えば1つのセットを作るのに、準備はどのくらいしているんですか?

B:多分、俺等くらい練習している奴そういないね。でも、最近eastern youthの演奏を見た時に、ああ俺等と同じくらい練習してんなと思ったね。それなりにいるよねやってる奴はね。そんなの聴けばすぐ分かるっちゅうか。まあ、練習すれば良いってものでもない表現の領域もあるけどね。少なくとも今、札幌の俺達の入ってるスタジオでは、俺達が一番練習してる。俺達のスタンプカードの埋まり方が異常に早い(笑)。俺、自分が才能とか天性のリズム感があるって思ったこと1度もなくて。そういうラッパーに対するコンプレックスめっちゃあって。昔から俺本当センスねえなって、そういうこと思ってた時代めちゃめちゃ長くて。それを払拭して乗り越えるにはどうするかっていうと、練習しかなくて。ここまで練習して伝わらなかったらもう良いよっていうとこまでダイ(DJ DYE)と練習してからライブするから、ライブに出てきてる地点でもう怖いものないんだよね。

I:基本90分、長い時は150分。その何倍もの時間を練習してるんですね。

B:ものすごい時間練習してるから、俺達の演奏のクオリティってどこの会場でも変わらないの。常に同じような音が出せる。でも、よっしゃーやったぞ俺達! って奇跡みたいなライブは、お客さんの方からやってくるんだよね。良いライブになるかどうかは、お客さん1人1人のテンションとか何なら健康状態だとか、いろんな状況に大きく左右される。だから、皆やる気満々で来ていて、健康状態も良くて、すごいテンション高くて、みたいな条件が重なった日に、俺とダイが練習してきたことがやっとフルで生きるっていうか。だから、そのドッカーンって波がいつ来てもそれを受けてモノに出来るように、こっちは準備してるだけなんだよね。

ライブは1時間半だからさ。最初の15分がテンション高いのは全会場当たり前にある。でも、30分後45分後、60分後75分後90分後になっても、皆がむしろ上がっていく、そういうのはなかなかあることではない。皆疲れてもくるし、弛緩していくよやっぱり。でも皆の気持ちが最後の最後まで消えないで上がりまくってる時、そういう奴等の時は俺とダイも、やった! 来た来た! 俺等絶対大丈夫だからお前ら任せて! って。そのためにしてるのよ、練習。そういうライブは(お客さん)1000人だろうが100人だろうが関係ない。良い会場でカメラがっちり揃えた時に必ずしも起きるわけでもない。今日だったかー練習してきて良かったねー、ってライブ終わった後にダイとよく喋ってる。分からないもんだ。奥が深いよ。

I:僕もカウンター商売をやっていて、お店の営業をライブのように感じています。準備するだけして、あとは BOSSさんの言うように、お客さんの方からドッカーンが来て、楽しい! っていう日と、全然盛り上がらないなって日もあって。なんで俺こんなことやってんだろうって落ちる日もあります。もしかしたらお客さんは静かに見てくださってるだけなのかもしれないのに。自分の体調と気持ち次第で。

B:前にお店(Monk)行った時は、仕込みの段階で活気に満ちてたけど、毎日同じ箱でやるとなると、続けるの大変だろうなと思う。俺のとはちょっと違ってくるよね。でも、盛り上がるかどうかはお客さん次第っていうのは、同じだね。お前どう思ってんの? って、こっちから投げかけなくてもこっちに伝わる時はやっぱり良い日だなって思う。それが伝わらないと混乱っていうかイライラする時もあるね。でも、それを我慢して我慢して我慢してると、実は皆エモーショナルなものをすごい溜め込んでいて最後に爆発したりするから、あん時キレなくて良かったー(笑)とか(思う日もある)。まあ色々ある。