INTERVIEW with ILL-BOSSTINO

01

成功の定義

⼤義名分なんてなかった。誰も相⼿にしてくれないから⾃分でやるしかなかった」

今井以下I僕達はTHA BLUE HARVESTってイベントをやらせてもらって、改めてTHA BLUE HERB(以下TBH)の生き方や歌をガソリンにしながら全国で頑張ってる仲間が大勢いるのを実感しています。TBHはずっと札幌を拠点に、全て自主制作で、独自のやり方で突き進んでこられてて。そうした「仕事」という切り口でBOSSさんの考えをお聞きしたいです。今日僕は、自分の後ろに自分の足で頑張ってる奴等とか、これから自分で何か始めようと思ってる若い子達がいると思って、その代表として質問させてもらいます。まずは自主制作について。25年以上自主制作を貫いていて、独自の立ち位置を確立されている。しかも毎回(のリリースが)ものすごい熱量で、求心力も高まる一方です。こうしたやり方のモデルになった人はいたんですか?

ILL-BOSSTINO以下BSLANGのKOちゃん達がレーベル作ってたり、B.I.G. JOEがラップやってて俺もやってみようと思ったり、純粋にリスナーだったことも含めて先に音楽やってて影響を与えてくれた人はいっぱいいたけど、でも、ここまでビジネスとして確立してやるってなった時は、正直(モデルは)いなかったね。全部自分達で考えてやってきたし、今もそうしてる。

I:最初からクリエイティブも営業も、自分達でされていたんですよね?

B:なんていうか、それがかっこ良いから、とか、インディペンデンスの正しい道だとかっていうようなことは全くなくて。当時は90年代中盤で、ミュージシャンとしてやっていくには、東京のレコード会社にデモテープを送って、聴いてもらって、契約させてもらうっていうルートしかなかったんだよね。レコード会社の偉い人に評価されないと次に行けないっていうシステム自体俺はすごい疑問に思ってたし、そもそもHIPHOPってさ、ちょっと特殊な音楽なんだ。ただのよくあるラブソングでもないし、歌ってる内容自体も。今でこそ俺は聴いてくれてる人へのエールになる曲を歌えてるかもしれないけど、当時の俺なんて結局、俺が一番かっこ良くて、俺の街が一番かっこ良くて、ってことしか歌ってなかったから。それがHIPHOPだと思ってたし。ニューヨークの好きなHIPHOPの連中が歌ってることもほとんどそうだったし、それを日本語でやったに過ぎない。そういう音楽を東京のレコード会社の偉い人がかっこ良いと思って会社の金払うか? って、何気に思ってた。じゃあどうすれば良いかってなった時に、KOちゃんとかがレーベル作って自分達で盤を作って売ってるのを見て、あんなやり方あんだって知って始めただけで。最初から大義名分とかってなかったよ。誰も相手にしてくれなかったから、結局自分でやるしかなかった。デザイナーの知り合いもいないからデザインも自分でやるしかないよね、みたいな。全部それだね。

I:TBHはメディアを避ける時期があったり、一方ではMonthly Reportの(HP上での)月1更新を20年以上続けていたり。メディアやお客さんと独特の距離感を保っていて、僕もそれに惹きつけられているうちの一人なんですが。その独自の立ち位置、在り方自体が、TBHの求心力を高め続けているように思います。BOSSさんの中にはその在り方の、何かルールみたいなものはあるんでしょうか?

B:俺等が出てきた時はインターネットもなかったし、北海道だし、日本中の遠くにいる人達との接し方っていう意味では、実態の見えないことが自分達に上手く作用した、っていうのはあると思う。ミステリアスっていうか。でも今はもう全然違うよ。割と自分のことを見せていくこともできるようになった。でもルールとかメソッドみたいなものはないね。一つ言えるのは、儲けられる時に儲けちゃって、あとの事は考えないで今売れるだけ売っとこうよっていうビジネスではないってことだね。

I:例えばですが、自分のいる料理の世界にも、いろんな成功の定義があると思っていて。ミシュランとかに評価されて星がついたり、グルメサイトのランクで上位になったり、店舗をどんどん増やして稼ぐ、とか色々あります。僕の場合、自分のスタイルを見つけて長く続けている和食の料理人とかを見て、ああいう風になりたいなって漠然と思ってるんですが、BOSSさんにとって「成功の定義」と呼べるものはありますか?

B:何かね、自由でいたいんだよね俺。基本的に。だから、俺にとっては自由でいられるのが成功なんじゃないかな。音楽の世界にも当然ランク付けはあるし、どのぐらい売れたか? とか数字だって明確だけど。変な話、武道館とかで何度もライブしてる奴とかでも、事務所からもらってる給料知ってる。すごい人数のお客を集めてるのに、ありえない金で使われてる場合も多い。そんな奴の話を聞いてると、何が成功かなんて分からなくなる。昔は武道館イコール成功みたいな単純な時代だったけど、今はそんなの眼中なくて、好きにやってそいつらよりも稼いでる奴等もたくさんいる。どこに成功を置くか。俺の場合はやっぱり、自由にいられるのが成功だと思うんだよね。ましてや、言いたいこと言ってるだけの音楽で、それで自由に最後まで生きられたら良いかな。

実際、俺等より売れてる奴等なんているし、もっと金儲けしようと思えばできるんだけど。例えば、ラッパーでもミュージシャンでも5000人とかそれ以上の箱でやってる人はたくさんいるわけ。でも、俺達の今のキャリアではLIQUIDROOMがちょうど良い箱なのね。1000人ぐらい。それでもすごい人数だけど。お客さんの顔が見える距離感とか、音響とか、良いところはいっぱいあんだけど、何より、その東京っていう街で年に数回1000人程度が来てくれるぐらいの広がり方が良い。俺長いことやってきて(分かったのは)、それぐらいが自分が一番自由にいられるギリっていうか。繰り返すけどそれでもとても多い人数だとは思ってる。一人一人が俺に与えてくれる理解には分け隔てなく感謝しかないし、お客は選ばないし、来る者は拒まないけど、同時に俺は広がり方にはとても注意してやってきたんだ。最小公倍数じゃなくて最大公約数が欲しいんだよ。バカ売れとかしちゃうと、そのバランスが崩れてしまうし、たぶんその東京とかうろついててもBOSSだとかって騒がれたり、のんびり気ままに旅することですらめんどくせえことになる。そんなの嫌だし。今ぐらいな感じがちょうど良い。

I:すべて自分が自由でいられるために選んできた道なんですね。

B:ガキの時から、ずっとそう。全部そこに端を発してるね。高校休学したのもそうだし、逆に復学して大学行ったのも、すぐ就職なんかしたくなかったからだし、大学卒業して就職しなかったのも遊んでたいからだし、なんなら自主で音楽やってるのもレコード会社に勤めるのが嫌だからだし。なんならお客さん達にも縛られたくないし。BOSSさんはこうあるべきだとか、TBHはこうでなくちゃならないとかって、俺じゃない立場の人間に俺の生き方を決められるのスッゲー嫌だから。

I:それが独特の立ち位置に表れているんですね。でも、遊んでいたいと言いながら、ものすごい仕事量じゃないですか。曲作ってライブしながら、クリエイティブもプロモーションも、レーベル運営も。それに最近は曲もMVもどんどん出してスピードが加速してますよね。一体どうなってるんすか!? といつも思うんです。

B:うーん。俺ぐらい仕事すれば、ガッツリ遊べるよっていうか。ここまで働けば、何の後ろめたさもなく自由に生きて自由に遊べるよなっていうのはあるね。どれぐらいのことをやれば遊んでも良いかっていう、その線引きは決めてる。それが結果的に上手くいって、ここまで来れてる。

I:今はどんな感じですか? 4年前に出されたセルフタイトルのアルバムで30曲作った時には「呼吸するように曲を作れるようになった」と言っていましたが、現在は?

B:作品作りに関しては、それをずっとキープしてるね。もう全然余裕。作詞やライブのアーティストの仕事に限らずレーベル業務も含めて本当よく働くなって自分でも思うんだけど、でもガッツリ遊ぶ時は遊んでる。突然休んで旅に出たり、連絡とれなくなることはいくらでもある。だから、自分の時間を削って働いてるって感覚は未だにないね。ずっと遊ぶためにめっちゃ働く。そのサイクルが自分の中で上手くできてるなって感じ。