INTERVIEW with ILL-BOSSTINO

02

勝者の振る舞い

勝った後の方がずっと難しい」

I:僕はファースト(アルバム)の「孤墳」なんかの強いメッセージには、リリースから20年以上経つ今でも聴くと、俺も頑張ろうって感じになりますし、お店の若いスタッフが聴いて「マジやばいすね!」みたいに上がってる姿を見ても、すごく良いなと思います。

B:10代後半とか20代ぐらいで、そういう気持ちになることって誰でもあると思う。ただ、今もファーストの曲をライブでやることはあるけど、やっぱそこから大きく進んだ25年後の自分の歌いたいことを歌ってるんだよね。でもファーストの曲は原点といえば原点だから、やっぱ歌っておいてよかったと思う。本当そう思うよ。それが今でも聴いてくれる人達、同じ立場にいる人達に共感を得てるんだったら、本当にあの時歌ってよかったなと思うよ。

若い奴皆、若いってのは心もそうだけど、年齢的に若い奴、録音するなり、今その時に何かしときなよって思う。俺だって今、ああいう気持ちになれるかっていったら、その気持ちを取り戻すことはできるけど、その気持ち一色になってた頃の自分じゃないから。結局、その時の渇望感だとか、悔しさとかって、大人になればみんな折り合いつけて、諦めるか、もしくは乗り越えるか、乗り越えたらもう全部なくなっちゃうものだから。俺等みたいに全部ひっくり返しちゃったら、その後に今更勝ちたいことだけに渇望している音楽だけを歌うこともなくなってくる。1つ勝ったら勝ったなりの歌い方、闘い方があるっていうか。変わっていくんだよ人間って。

I:2ndのソロ(アルバム)の「S.A.P.P.O.R.A.W. Pt.2」を思い出しまた。変わっていく自分と、同じく変わっていく同業者への眼差しというか。ファーストの頃に滲み出ていた、音楽業界や東京への敵対心というのとは全く違う。

B:時間が経って、若い世代が増えたり、同世代のライバルが消えていったりする過程を経て、いつからかそういう視点になってきた。20周年の頃には気づいてたかな。もしかして俺達、あの頃に挑んでいた勝負に勝ったんだ、ってね。自分自身の向上の道はまだまだ果てしないから、自分に負けることもあるし、そうなりたくないから勝ちにはこだわる。自分自身が相手って意味ね。ただ、その時にセールスやチャートとかだけじゃない何か、そう思わせる実感があった。そうなると、勝ち続けたいっていう気持ちも変わってくる。もちろん勝つまでも大変だよ。けど、勝った後の方がずっと難しいって今は思う。勝つまではある意味、自分のエゴだけで進めるんだけど、勝った後に本当に問われるのはその振る舞い方。ジュエリーつけて高い車乗ったり、もうとっくに勝ってんのに惰性で敗者の態度を見せたり、いろんな勝者の振る舞いがあるけど、俺は違う。ましてや負けた奴を馬鹿にするなんて超かっこ悪いし、敗者にも尊厳を見出したい。

若いラッパーとか音楽やってる人に時々話すことなんだけど、勝ったなら、勝ったなりに、(ライブでは)お客さん含めてみんなで勝った気持ちを共有した方が良いと思うんだよね。昔はほら、TBHなんて宗教だとか、あんなのHIPHOPじゃないとか言われて、でもずっとTBHのこと信じて(リスナーの皆は)ここまできてくれたじゃないかって。同世代のラッパーが皆いなくなって、俺達が残って。皆がTBHを選んでくれて、今日ここに来てくれて。つまりここにいる俺達全員で勝ったんだよって。その勝者として、俺達はどういうパーティーをこれからやっていくのか。俺達が今いるのはそういうことなんだよって。

I:TBHのライブはすごくそういう気持ちに溢れてます。

B:皆で勝って皆で高揚感を得て、惨めな奴は誰もいないっていうか。もしかしたら嫌なことあって会場には来た(人もいる)かもしれないけど、皆割と憑き物が落ちたみたいに良い顔して帰ってくっていうか。お疲れさん、また頑張ろうぜって言って別れてく。ライブはそういう集まりにしたい。

でも、それって、自分の弱さを見せることでもあるし、ハングリー精神を捨ててしまうと自分がダメになる怖さもあって、実は難しい部分でもある。でも(俺等は)そうやってきて、意外とそうじゃないことがわかった。勝った後も、俺等は未だにチャレンジし続けることができてる。今までのいつよりもチャレンジしてる。勝ちながら。この流れに気づいた時、こういう勝ち方もあるって好きになっていったんだ。

I:勝ったと言っても、モチベーションは全然落ちていないじゃないですか!

B:全然落ちてないね。勝ったって言っても、まだまだこいつには負けたくないって奴、めっちゃいるからね。ただ、いつまでも負けたくないっていうモチベーションだけでは続けられなかった。俺は。40とか50になって、25年同じことやってて、まだ勝ちたい、まだ金欲しい、まだ有名になりたい、ってそれだけがモチベーションだったら、もう勝負の体をなしていない。そんなの永遠に勝てないよ。そしてもし勝ったなら、次はそこから何を歌っていくか。

I:「胸に掲げた5年先のカレンダー」というリリックもありますが、これからのこととか、この先どういう自分になりたいか。お聞きしても良いですか。

B:まずはあれだね、今作りかけの作品をちゃんと作ること。コロナになる前は50歳までにNYに住んでアルバムレコーディングしたいだとか、インドにしばらくいたいだとか、いろんなやりたいことがあったんだけど、それがコロナがきて、世の中の進め方そういう感じね、みたいになった。何が起きるかわからん世の中だって改めて感じた。だから、やりたいことや行きたい場所はあるけど、今は作品たくさん作っておこうかなって。そっちの方に(気持ちが)移ってる。

52(歳)だから新しいことは諦めなくちゃ、なんてことは全然なくて。今から外国に住んで、自分1人になって、本でも書いたりして生活していくことも本気でやろうと思えば可能だから。30年も経てば、それもちゃんとできるようになってるはずだし。とか、何気にそういう自分もいるよね。もちろんラップ辞めるっていう話じゃないんだけど、もっと何か(新しいこと)ないかな? っていう自分は常にいるよね。まだまだ新しいことはできる。60や70になっても。

I:ラップでここまで上り詰めてこられて、そんな思いもあるんですね。

B:そうだね。何だってできる。いつからだってできる。そういう感じ。今井くんは2店舗目出すとかないの?

I:すぐにはなくて。でもスタッフが育っていて、「monk」を卒業して羽ばたいてる子も出ていて。彼らの可能性を広げる場をもっと広げられる場があれば、という思いは膨らんでいます。「monk」がちょっとでも彼らの人生の役に立てれば良いなと。今はそんな感じです。