風がつくるもの│大橋弘写真展

2015年2月4日[水]─3月2日[月]
凍みこんにゃく[茨城県久慈郡]
  • かぐれ
  • ORGANIC BASE

風がつくるもの遠いむかしから、ヒトは風を待っていました。ことに、冬の白い山から吹き下ろすからっ風や、肌を刺すような寒風をよろこびました。風のしごとは、乾かすこと。嫌われものの北風で、保存食をこしらえたのです。寒の時期に吹く風は、雑菌が少なく清らか。湿気の少ない風が、味よく最上の干物に仕上げます。それも、ただ乾かすだけでなく、素材の持つ甘味や旨味も栄養価も凝縮します。野菜や豆、穀類、海藻、きのこや果実、魚、肉類・・・・。すべて干物・乾物になりますが、自然の風にまさるものはありません。天日干しも自然凍結乾燥も、じつは風の力なくしてはできないのです。軽くてかさばらず、常温でへこたれず、水で戻せばいつでも息を吹き返す。そんな優れものを作るために今もヒトは、風を待っています。文・陸田幸枝

焼き干[青森県むつ市脇野沢九艘泊]

ヒトト[吉祥寺]

infomation

期 間│2月4日[水]─3月2日[月]
時 間│12時─22時
会期中 火曜日休み
水曜日は展示のみ17時まで
会 場│食堂 ヒトト[地図]

talk

スライドトーク│大橋弘+陸田幸枝
日 時│2月25日[水]19時─21時30分
参加費│2,500円(ワンドリンク含む)
「風がつくるもの」セレクト干物と日本酒付き
申込みは終了しました。

profile

大橋 弘Hiroshi Ohashi

かつてインテリアデザイナーを目指して工業高校の木材工芸科に在籍していた頃、友達と奥多摩に写真を撮りに行った。そのとき私が撮った写真を、友達が知らぬまにコンテストに応募し、たまたま入選してしまった。それが根拠のない自信になったか、写真の面白さに味をしめ、東京綜合写真専門学校に進んだ。卒業後は無謀にも初めからフリーランス(フリーター)。アルバイトして金を貯めては、カメラをもって旅に出る。金が尽きると、東京に舞い戻ってアルバイト、そして旅。その繰り返し。楽しい良い時代だった。

 

26歳のとき、遠藤周作の『沈黙』の舞台、島原半島口之津に行こうと思い立ち、友達3人とスーパーカブで長崎へ出発。長崎の大浦日ノ出町に家を借り、1か月間長崎中を走り回って、いよいよお金が尽きた。カメラを質に入れ、東京にもどるお金もなく、見つけたアルバイト先が炭坑の島、閉山を1年半後にひかえた軍艦島だった。6ヶ月間構外作業員として働いた。都会育ちには、背骨がきしむほどの重労働だったが、体力だけは自信があった。あやうく主任になるところで島を去った。今思うと、面白すぎる体験をいっぱいした。

 

その後もしばらくはアルバイトしつつ、雑誌の写真の仕事をした。

 

雑誌の連載で日本の伝統食を月2回8年間190ヶ所ほど巡ったり、伝統工芸の職人さんを訪ねたり。20年ほど前から歩き始めた、日本の「鍛冶屋巡り」は120カ所を越えて連載中。鍛冶屋を訪ねる時は、いまも心が躍る。職人さんのリアリティには、うむをいわせないものがある。ライフワークでは苔の写真を撮り続けて、いつのまにか30年。いまは八ヶ岳に通っている。写真を撮ることが、年々楽しくなる、今日この頃です。

写真集
「MOSS COSMOS 苔の宇宙」「1972青春軍艦島」「FRACTAL」

写真展
「和紙の町小川町」「MOSS COSMOS 」「PLANTA」
「里芋畑」「1972青春軍艦島」「森の時間」「FRACTAL」

著書
「日本の手仕事」「極上食材図艦」「長寿の国日本の伝統食」
「日本の正しい調味料」「野山で生まれた暮らしの道具」「日本鍛冶紀行」

profile

大橋弘さんの写真をみたのは、忘れもしない雑誌「風の旅人」での鍛冶屋の写真。真っ赤に燃える火と鉄、何十年も同じ作業を繰り返してきたであろう熟練の職人から立ち上る気配。「鉄の匠ーSACRED FORM」と名付けられたその写真群は、文字通り神聖な形であり、同時に野鍛冶たちの息吹がすぐそこに聴こえるかのような生々しさがどの写真にも切り取られていました。

ぼくは、写真とともに「大橋弘」というクレジットを目に焼き付けていました。
2007年だったように思います。

それから6年後の冬のある日。
「ヒトトにすごく合うと思う」と、「風の旅人」編集長の佐伯さんから大橋さんをご紹介していただきました。

鍛冶屋の写真展をお願いしようと、胸を躍らせて大橋さんと初めてお会いしました。そのとき、大橋さんが「おれ、色んなもの撮ってるんだよね」とごそごそ取り出して見せてくれた写真。それは、壷の中に醸された伝統食をとらえた写真たち。

僕もふくめ、ヒトトにいたスタッフ一同、息を呑みました。
溢れんばかりの生命力と、おもわず手をあわせたくなるような、美しいテクスチャー。(実際に、大橋さんは手をあわせてから写真を撮ったそう)
何も考えられず、ただ、大橋さんにお願いしました。
「この写真展を、やらせてください」と。それが、去年の6月に開催した「壷中の天」という写真展です。

その「壷中の天」中に、密かに続編の企画を進めていました。「発酵」に焦点をあてた伝統食に続く、「風」の伝統食。乾物や干物の写真展。それが、今回の展、「風がつくるもの」なのです。

その土地にしか吹かない風。
変わらぬ昔ながらの手法に則って、誠実に作り続けている人々の手塩。
連綿と受け継がれてきた日本の食文化の凄みと美しさを、大橋さんの写真を通して感じていただけたら幸いです。

この東京にも、風は吹いています。
地方も都市も、それぞれの風が吹き、ヒトが生きている。
この展がそのことを思い出すきっかけになれば、嬉しいです。

最後になりましたが、共同開催の機会をくださったかぐれの渡辺敦子さんとスタッフの皆様、ご縁を繋いでくださった「風の旅人」の佐伯剛さん、展に寄せて寄稿くださった陸田幸枝さんに心より感謝申し上げます。

この展に足を運んでくださった皆様のお心に、同じ風が吹きますように。

[オーガニックベース代表|奥津爾]